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「舟で渡る県道、小紅の渡し」 俳句と暮らす vol.07
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「舟で渡る県道、小紅の渡し」 俳句と暮らす vol.07

もうすぐ1月が終わり、2月4日には「立春」、春を迎えます。

私の自宅は、長良川に架かる大きな橋のひとつ、忠節橋の近くにあります。
毎朝、毎夕、車で(たまに徒歩で)橋を渡るとき、長良川や金華山を眺めながら、その日の川の表情や機嫌、季節の移ろいを感じています。

市街地の中心にある大きな長良川は、川の近くで暮らす私にとって大きな“余白”。
岐阜駅前の、建物が密集する騒々しい通りから、橋を渡った瞬間に景色が変わります。
ぱあっと視線の先がひらけて、近くの金華山や岐阜城、静かな長良川、そして遠くを見渡せば、うっすらと雪をかぶった山並みを眺めることができます。

岐阜市鏡島(かがしま)から撮影。雪をかぶっているのは伊吹山です。

今日訪ねるのは、長良川を渡る、岐阜市唯一の渡し舟「小紅の渡し(おべにのわたし)」。
長良川には、日常の交通手段としての「渡し舟」が今も残っています。

舟の上から、岐阜の冬の景色を眺めてみようと思い、のりものが大好きな5才の息子と一緒に出かけました。


今も交通手段として残る「小紅の渡し」


長良川を渡る、「小紅の渡し」。
昭和初期まで、長良川には12の渡しがありましたが、現存しているのは小紅の渡しだけです。
岐阜市一日市場と鏡島のあいだ、約120mの川幅を舟で渡ることができます。

舟旅を楽しむ観光遊覧船ではありません。
立派な「交通手段」として毎日運航しているのがすごいところ。
県道「文殊茶屋新田線(県道173号)」の一部で、利用は無料です。

歴史上で最も古く「小紅の渡し」が登場するのは元禄5(1692)年ですが、それよりも前からあったのではないかと言われています。
川下には「河渡の渡し」があり、これが中山道の表街道でしたが、「小紅の渡し」は裏街道として栄えました。

現在、渡し船はエンジンで駆動していますが、以前の舟は木製で、水深の浅い岸付近では竹ざお、水深の深い部分は櫓を使って進んでいたそうです。

以前の木製の舟。櫓で進みます(岐阜市提供)

その後、船外機付きの木造船になり、さらに2015年には、繊維強化プラスチック(FRP)製の舟になりました。


船頭小屋を訪ねて「乗ります」と


北岸から、いよいよ小紅の渡しに乗ります。
長良川の堤防にぽつんと佇む船頭小屋を訪ね、「乗ります、お願いします!」と声をかけました。

「乗りますか? ちょっとお待ちくださいね」と、女性の船頭さん。

(ちなみに対岸には小屋はなく、待機の船頭さんは一人なので、南岸から乗りたいときは備え付けの白い旗を振るか、「おーい」と大声で呼ぶと迎えにきてくれるそう)

運行時間は決まっておらず、「乗りたい人がきたら出発」というスタイル。
ささっと慣れた手つきで、船頭さんが舟の準備をしてくれました。

私たちは、堤防から川辺へ降りる階段を進み、舟のところまで行きます。

こちらが、今日私たちを乗せてくれる舟。
息子も私もライフジャケットを着て、いよいよ舟に乗り込みます。


川面から見る金華山と岐阜城


すうっと川面をすべるように出発。すると、波ひとつなかった長良川に小さな航跡波が広がります。
長良川の水はとても澄んでいて美しく、けっこう水深は深めのはずなのですが、それでも川底が見えそうなほどの透明度。
息子は「おさかな、いないかなあ?」と、おそるおそる川を覗き込んでいました。

ぱっと顔を上げると、視線いっぱいに広がる長良川と、奥にそびえる金華山、さらに頂上の天守閣まで、くっきりと見えました。

冬は空気が澄んでいて、眺めは最高。
細部まで描き込まれた水彩画のような、繊細な風景が目に飛び込んできます。

静かな川面に映る、“逆さ金華山”。
舟が進むことによる僅かな川のゆらめきに、逆さ金華山が消えてしまいそうで。
でもその儚ささえも愛おしい、美しい眺めでした。

進んでいく舟の上で、目を閉じてすうっと大きく深呼吸をすると、すぐ近くに川の匂いを感じます。

舟に乗っている時間はほんの1〜2分でしたが、私にはもっと長く感じました。
いつも見ているはずの金華山や長良川も、川面から見るとまた違って見えてくるから不思議です。

ちなみに冬は、鴨などの野鳥を見ることができるバードウォッチングのスポットとしても知られています。
舟に揺られながら、飛来する鳥たちを眺めるなんて、それもまた最高です。


対岸で見つけた小さな足跡


対岸までは約120m。
およそ1〜2分ほどの短い舟旅でした。

着船し、対岸に降り立とうとしたとき。
船頭さんが、「これ、鳥さんの足あとだよ」と、息子に教えてくれました。

「わあっ、ほんとだ!」と興味津々で覗き込む息子。

「とりさんも、ふねにのったの?」と言いながら、大事な足あとを踏まないように舟を降ります。

私たちを下ろすと、また船頭小屋のある北岸へと戻って行く舟。
船頭さん、息子にも優しくしてくださりありがとうございました。

遊覧船ではないので、往復利用はできません。
舟に乗ること自体が目的という人もいるそうですが、対岸に着いたら降りるのがお約束。

私たちも南岸の堤防を越えて、すぐ近くにある「鏡島弘法」へ向かいます。


弘法さんで手を合わせる冬の日


舟を降りて堤防を越えると、すぐに「瑞甲山 乙津寺」があります。
弘法大師とゆかりが深いことから「鏡島(かがしま)弘法」と呼ばれ、親しまれている弘法さんです。

前日に降った雪がまだ残っている鏡島弘法を息子と一緒に参拝したあと、お寺の鳥居近くにある小さな駄菓子屋さんでお菓子を買って、帰路につきました。

毎月21日には縁日がひらかれていて、たくさんの人が訪れる鏡島弘法。
その日は、「小紅の渡し」に乗る人も多いそうです。


冬の川面から眺める、冬の岐阜


「小紅の渡し」という名前の由来は諸説あるそうですが、そのひとつに「渡し舟に乗って嫁入りする花嫁が、川面に顔を映して口紅を直した」という説があります。

清らかな水が流れる穏やかな長良川。
いつも、きれいな川だなあ、と思いながら眺めていますが、こうして舟に乗ったり、川で遊んだりすると改めてその美しさを実感します。

今も、人々の交通手段として残っている、小紅の渡し。
日常なのに非日常な、心おだやかな時間を過ごすことができました。


暮らしの一句

着船の足跡ふたつ冬川原 麻衣子

【季語解説】冬川原(冬)
冬の季語「冬の川」の傍題(仲間の季語)として「冬川原(ふゆがわら)」があります。
冬の川は、夏や秋の彩りの豊かさに比べると色が少なくて静かな印象です。
暖かい時期よりも水かさが減り、その分広く感じる冬の川原。でもそこには枯草ばかりで、どこかひっそりとしています。
「春の川」「夏の川」「秋の川」「冬の川」、これらすべて季語ですが、それぞれ見える景色も、込められた思いも違います。
それを自分の詩情で受け止め、感じ取りながら五七五を綴っていくのが、俳句の楽しみでもあり、難しさでもあります。
次の更新は、立春のあと。春のお話です。春はもう、すぐそこまで来ています。

小紅の渡し
運航時間:4~9月…8:00~17:00、10~3月…8:00~16:30
料金:無料
休航日:毎週月曜日(月曜日が祝日、もしくは21日と重なる場合は、その翌日が休航)、年末(12月29日〜31日)
欠航日:悪天候、増水時など
乗船場所:北岸…岐阜市一日市場(船頭小屋があります)
南岸…岐阜市鏡島(鏡島弘法乙津寺北)



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