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あたらしい機織池(はたおりいけ)伝説

物語をさがして vol.23

2023年になりました。新しい年になりましたが、私は今日も古い物語の本をめくっております。そして、ふと気づいたことがあります。

この辺りに伝わるお話に「機織池」「機織石」など、機織りに関連するお話がしばしば見られます。おそらく、全国各地にもあるのではないでしょうか。

布を生産する自動式の織機が生まれる前、「機織り」は家の中での主に女性の手による大切な仕事だったと思います。どのお話にもよく働く女性が出てきます。

ところが、そんな機織りの話は、どれも哀しく、少し怖い話ばかりなんです。
機織にまつわる哀しいお話を3つあげてみましょう。


名古屋市西区蛇池に伝わる昔話「機織石」

この辺りに嫁いできた若いお嫁さん。朝から晩まで野良仕事につき、終われば機織りの仕事が待っていた。

機織りをしたことがないお嫁さんは、姑に教わり毎日猛特訓をするが、姑の軽快な機織りの音とは程遠く、なかなか上達が難しい。一人夜更けまで練習をするのだった。

ある晩、機織りの音が消えたかと思うと、娘も消えてしまっていた。そばの池に身を投げてしまったのだ。

そののち、村人が池から機織りの音が聞こえると言って、お嫁さんの苦労を案じ、供養のために石を置いたのだという。


尾張旭市新居町に伝わる昔話「機織池」

昔あった大きな池は、雨期になると決壊し、周囲への被害が大きかった。

困った村人はどうすればよいか困り果て、占い師を頼った。

すると、占い師はこのような予言をしたのだった。
「5月1日に、この池のそばを機織道具を抱えた女性が通るだろう。その女性を機織道具とともに池に沈めれば、池が決壊することはなくなるだろう」と。
かくして予言通りの女性が現れ、村人は見境もなく占い師の言うとおりにしてしまう。

そののち池が決壊することはなくなったが・・・

5月1日に機織りをする者がその日のうちに命を落とすようになり、村人はその女性の命日には機織りをやめ、寺を建てて娘の供養をするようになったという。


日進市に伝わる「機織池の伝説」

あるお城で大殿様が亡くなり、若殿様を迎えることになった。若殿様の行列を見に集まった村人たちの中に、美しい娘がおり、若殿様は娘にひと目ぼれをしてしまう。

殿様は娘をさらうように城に連れてきたものの、娘には心を寄せる若者もおり、殿様のいうとおりにならない。

殿様の恋心はいつしか憎しみに代わり、機織道具と山ほどの糸を娘に差し出し、3日のうちにすべてを織れと命じた。むろんそれもかなわず、娘は機織り機とともに池に沈められてしまう・・・

いかがでしょうか。どのお話にも機織りと女性にまつわる、悲しい運命が書かれています。女性は男性に従う者、されるままになってしまう非力な者として語られていることが、同性としては悔しく、たまらないものがあります。

こういったお話を例えば紙芝居で子供にお話しするのもちょっと気が重いものです。また、現在のその土地を訪れた時にちょっと怖いイメージを持ってしまうのも何かいい気分でもありません。

そこで、私はこれらのお話のマイナスイメージを払しょくしようと、日進の機織池伝説をベースに、新しく機織池の伝説を考えてみました。

どうぞご覧ください。


あたらしい機織池の伝説

むかし ある村のお話です。
その冬はお城の大殿様がご病気で死んでしまったので
お城の人たちも、村の人も哀しくて悲しくて、泣いていました。
そうしてみますと鳥や生き物たち、木や草までが、なんだか元気がないようです。

春になりました。
今まで静かだったお城から、たいこの音が聞こえてきます。
今まで旅に出られていた若殿様がお城に戻ってくることになったのです。

村人も家から出てきて大騒ぎ。
行列を作ってお殿様をお迎えします。

男も女も、犬も猫もうれしそう。

その中に貧しい機織職人の娘がおりました。
娘は人ごみの中で、ひときわ美しく輝いています。

若殿様が馬に乗って到着すると、村人たちは手をたたいてよろこびました。
若殿様は行列の先頭で、さっそうと馬に乗り進んできました。

ところが、若殿様が娘の前を通ろうとしたときに、突然、馬が気を失って倒れてしまったのです。

殿様は馬から転がり落ち、ケガをしてしまいましたが、とっさに立ち上がり、そばにいた娘に向かって
「無礼者!」
と刀で切りつけようとしました。

ところが若殿様は娘の顔を一目見て、あまりの美しさに雷に打たれたようになってしまい、娘を切ることはできず、だまってお城の方に向かっていきました。

次の日。
覆面をしたお城の使いの者が現れて、嫌がる娘をさらっていってしまいました。

村の人は、娘はどうなったのだろう、元気でいるのか、あの娘は何もしていないのに、とみんなでたいそう心配をしました。

若殿様は、娘のあまりの美しさに、娘のことが忘れられなくなり、おそばに置いておきたいと考えたのです。

ですが、娘にはすでに結婚をしたいと思う長九郎という若者がいて、殿様に嫁ぐ気はないと、娘は嫌がり家に帰りたがったのでした。

若殿様は思い通りにならない娘が憎らしくなってきました。
そして娘に機織機と山ほどの糸を与えてこう言いました。
「これを3日間で織り上げなければいうことをきいてもらおう」

どんなに上手い人でも織り上げるには1年ほどかかる糸の量です。
でも、何もせずにいるわけにはいかないと、娘は必死で機を織り続けました。

お城から機を織るカタンカタン、チャンコチャンコという音が聞こえます。
長九郎も村人も、その音に耳を澄ませ、一心に応援をするのでした。

しかし3日目の朝、
娘はやはりすべての糸を織り上げることはできませんでした。

それでもいうことを聞かない娘に腹を立てた若殿様は、娘を機織機ごと、池に沈めてしまいました。

あまりのむごい仕打ち。

村人はとても哀しみ、池をくまなく探しましたが、娘も機織機も見つかりません。恋人の長九郎もどこかへ姿を消してしまいました。

ところがその後、不思議なことが起こるようになりました。
夜に池の傍を通ると、池の辺りから、チャンコ、チャンコと、機織りの音が聞こえてくるのです。

そのうわさが広まると、殿様は、娘がもしかしたら生きていて、抗議を続けているのではないか、もしくは、死んでもなお自分に恨みを抱き続けているのではないかと、気が変になってしまい、ついに池に飛び込んで亡くなってしまいました。

それからは機織りの音はパタリと途絶えてしまったということです。

とても悲しいお話・・・・

しかし、この話はここではおわりません。
実は娘は美しいばかりではなく、頭もよく、力も強く、足も速かったのです。

池に沈んだと思わせて、そのまま、なんと機織機をかついで速く、速く、西の方まで走って逃げて行ってしまったのです。

長九郎は、殿様に少しは反省してほしいと、夜な夜な池の淵で機織機の音を鳴らしていたのでした。長九郎の思いが伝わりすぎるほど伝わって若殿様が亡くなってしまうと、二人は西の国で待ち合わせ、結婚しました。娘は美しい織物を織るので大変評判になり、二人は幸せに暮らしました。

何しろお殿様からいただいた、山ほどの上等の糸がありますからね。

おしまい。


さて、そんなわけで、女であれ男であれ、理不尽な理由からどんな境遇に陥っても、勇気と知恵でたくましく生きていけるといいなあという願いを込めて、本年も素敵な、心動かされる物語をさがしていきたいです。

本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。


参考『愛知県伝説集』福田祥男著 名古屋泰文堂
『おかあさんが集めたなごやの民話』編 小島勝彦 ふるさとを訪ね民話を読む会
『新版日本の民話66 尾張の民話』編 小島勝彦 未來社
『日進町史 七』編日進町史編纂委員会 


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