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「花市場に突如現れた壁画アーティスト」 花、暮らし、私 vol.08

花市場の朝の風景


夜もふけ、街が寝静まりようやく眠りも深くなってきた、という頃。
まだ月がキラキラ輝く真っ暗な夜空の下、お花の市場は活気づきます。

ゴロゴロと台車を弾く音、シャッターが開き、一斉に人が流れ込む花市場。
昔気質のおじさまたちと花屋さんの会話、どこを見ても色とりどりの花、そして沢山の人。

名古屋市中区にある花市場には、東海近郊の多くの花屋さんが深夜から仕入れにやってきます。愛知、岐阜、三重、遠いところだと滋賀の方も。私も少し前まで、この花市場の一画で働いていました。

とにかく沢山のお花屋さんが、ここで仕入れたお花をお店に連れ帰ります。丁寧にケアを施したより選りのお花を、もっとも美しい状態でお客様の手に届ける。その為に遠くから訪れるお花屋さんも少なくありません。


花屋の皆さんは、新鮮なお花、お客様のオーダーに寄り添うお花、その日のとっておきの輝くお花を求めて来られる、お花の目利きのプロ。市場がオープンした直後は、鋭い目でお花を探されている真剣さがこちらにも伝わります。

あっという間のことで、オープンと同時に戦場のようなピークを迎える忙しさは、朝の7時時すぎには引いていきます。そこからお花のケアをしてお店を開け、夜まで営業しているのだから、お花屋さんの仕事って本当にすごい。


そんな花市場の一画に、ある日大きな変化が


仕入れのために市場を訪れたある日。私は花市場の一画で起こったある変化を目の当たりにしました。

お客様のオーダーにぴったりと寄り添ってくれる、特別なお花はどこかと、いろんなお店を回った後、ようやく見つけたお花たちをお願いしようと振り向いた先に、これまでにはなかった風景が飛び込んできたのです。

それは、壁一面に広がる幻想的な風景。

以前に見たときは白一色だったはずの壁に、鮮やかなブルーやパープル、グリーンなど、何色も重なり合う奥行きのある絵が描かれていました。とても繊細なタッチと大胆な色の中に佇む一人の少女の側にはキングプロテア(南アフリカ原産のお花)が描かれています。

この絵の前に立った時、一瞬、私の周りの時が止まったように感じました。
重力とか、常識とか、社会とか、なんだかそういったものは一旦消え去って、目の前の「生」と対峙するような感覚。アートに関して私は評論なんてできませんが、ただただ、“生きてる絵だな” と思ったのです。

花も、植物もみずみずしく、そこに吹く風や陽の光すら感じそうな絵。
突然現れたこの絵に、他の花屋さんも興味津々のようでした。

後から聞いたところ実はこの壁画、この壁があるお店で働くスタッフ兼アーティストのRiiさんによって生まれたものでした。


絵と花のアーティスト


Riiさんはこのお店で働きながら、フリーで活動するフローリスト(フローリストについてはvol.4の記事を参照ください)としても活躍されています。オーダーでのお花の制作や、お花の教室を開いたりしているRiiさんの花歴は約20年。フラワースクールを出た後、東京のお花屋さんで経験を積まれ、その頃から同時に絵も描き始めたんだとか。名古屋に来てからは花市場で働きながら、フリーなスタイルでお花と絵の仕事を両立されています。

そんなRiiさんに、なぜあの壁画を描くことになったのか?Riiさんって、どんな人なのか?普段はどんな活動をされているのかと根掘り葉掘り(!)聞かせていただきました。

――― 花市場にいきなり壁画が現れて驚きました!なぜ、あの絵を描くことになったのですか?

Rii:花の市場では、私が絵を描いている事はあまり知られていませんでしたが、店内のPOPやアマビエ様を描いたイラストが好評で、何か作りたいPOPがあると、「Riiちゃん描いて~」と、お願いされたりしていました。そうやってひっそり活動していたのですが、数カ月前に新しく入ったアルバイトさんが、偶然私の絵の個展に来てくれたことがある方で…。
店内の壁が少し汚れてきて、白く塗り直そうか?となった時に、彼が「どうせ白く塗るんなら、Riiさん、何か描いたらいいじゃないですか!」と、社長に絵を描くことを推してくれたんです。
こんなみんなが見る場所に…!と最初は恐る恐るでしたが…まぁ、「やっちゃうか」と(笑)

―――そんなきっかけがあったんですね!あの絵を描いた事で、どんな変化がありましたか?

Rii:とにかく、皆さんが良い反応をしてくれた事がとても嬉しかったです。それから、あの絵をきっかけにいろんなお花屋さんが話しかけてくれるようになって、仲良くなれただけでなく、絵のご依頼にも繋がりました。住宅のお部屋の壁画、お花屋さん&フォトスタジオのフォトスポット用の壁画や、なんと「車に描いて」というご依頼まで。これは初めての体験でした。どんな塗料なら雨風・洗車に耐えられるのかと、不安すぎて、お友達の車で実験させてもらったりしました(笑)

―――壁画を描いてから、どんどんお仕事が広がっていってるんですね!

Rii:私には「いろんな場所で絵を描き歩きたい」という目標があって、生きている絵を描くことで、その場所のエネルギーを良くする事ができると思っています。その為に、世界中で絵を描いて、いろんな場所に良いエネルギーを置いていきたい。夢は世界平和!そこに繋がるようなことができはじめているのでとても嬉しいです。

―――世界といえば、昨年パリのカルーセル・ドゥ・ルーヴルで開催された【サロンアートショッピング・パリ】に作品を出展されたそうですね!どんな感触でしたか?

Rii:実は、感触はあんまりないんです(笑)。コロナの事もあり、作品だけ送ったというのもあって、なんかさらっと終わったなぁ~と。
展示が終わってもあまり実感はなかったんですが、証書が届いた時に、「あぁ、自分の作品が海を渡って行ったんだ。そして、他の国の人からも評価してもらう事が出来たんだ。文化が違ってもちゃんと伝わるんだ」と、ようやく実感がわいてきました。

Salon Art Shopping Paris
ルーヴル美術館の地下に位置するカルーゼル・ドゥ・ルーヴルで毎年春と秋の年2回開催される、パリを代表するアートフェア。世界中から美術関係者やアートファンが訪れる。
ルーヴル美術館の学芸員や学術機関の教授、ギャラリスト、マスコミ、出版社関係も来場する為、世界中のアーティストが出展し、国際色豊かなアート展示となる。


Rii:展示はしてよかったと思っていますが、実は出展した事自体は大した事じゃないと思っています。大事なのはやっぱり、目の前にいるお客さまや応援してくれる人たちの方。色んな事にチャレンジする私を見て、私がこれから何をするのかな?と、さらに楽しみにしてくれたら嬉しいです。


花がないと絵が描けない-花と絵の関係


―――これまでに感銘を受けたアーティストはいますか?

Rii:私はこれまで、意識的に絵の勉強をしてきませんでした。自分の絵や感性を大事にしたいという思いから、美術館にもあまり行かないんです。ただ、かなり昔にたまたま知人に連れて行ってもらった展覧会で、ある絵の前で動けなくなった事がありました。当時はそれがモネの絵だとも知らずに…。

それ以外では、誰かの絵に影響を受けるということは基本的にあまりなくて、私の絵の先生は花や植物。
自然の色彩やグラデーションが私にとっては勉強材料で、自分の絵は一輪の花と同じ。そう思って描いています。だからなのか、私の絵が好きな人は花が好きな人が多いんです。

Rii:私にとって、絵と花は切り離せないもので、植物の力で私は絵が描けているんです。
ひとつのアレンジの中にも、ひとつの社会があります。ちゃんみんな活きていて、引き立てあっている、活かし合う社会があるんです。私は植物から絵だけでなく、生き方まで学んでいます。ひたむきに、素直に生きるのもそのひとつ。
花の良さを伝えたいし、私自身が楽しいから、市場の仕事もずっとやっていきたい!今はやりたい事が多すぎて、手放せなくて困っています(笑)

―――Riiさんにとって、花と絵は切っても切り離せない存在なんですね。実際のお花のお仕事では、どんな思いでお花と向き合っているのですか?

Rii:まずはお客さんのことを想像しながら、私がときめく花を選ぶ。そして、最後は「お花が仕事をする」と思っているので、花に託します。
お客様や生徒さんには、「お花と会話する」ということを伝えています。日常で出会う、足元の花や枝につく花や葉に声をかけると元気になる。そういう気持ちでお花屋さんで買ったお花にも声をかけると、不思議とお花が長持ちするんですよ。

また、私は空間をつくるのが好きで、絵だけを見て欲しい訳ではなく、「絵のある空間」づくりを大切にしたいと思っています。それはおうちに一輪でもお花を飾ってもらいたいという思いと同じ。花がある空間、絵がある空間で、植物と仲良くなったり、幸せな暮らしをしてもらえたら嬉しいですね。
私たち人間は自然の一部ということ。花から学んできたことを、花のお仕事や絵を通して伝えていきたいです。

―――貴重なお話をありがとうございました!


絵と花の仕事とこれから


Riiさんはお花の仕事も絵の仕事も、どの場面でも気持ちのいい関係を増やしながらお仕事をしているのだそう。市場で仕入れをする時の何気ない会話、お花を作って配送する時の配達員さんとの会話、裏方の仕事やお客様から見えない場面こそが大切、と言うRiiさん。

少し先の未来では、そういった部分にもしっかりと心を込めた、幸せに満たされるお仕事を全員でできる花屋を経営したいという夢を語ってくださいました。

今と変わらず心を込めて、死ぬまでお花の仕事をしたい。世界中に絵を描いていきたい。そんなRiiさんのお話を伺いました。私は絵は描けないですが、お花を通して誰かに何かを伝えたいという想いは、とても共感ができるものです。
お花の仕事だけではなく、お花の持つパワーを絵にそそぎこむ。こんな形でお花と向き合っている方もいるのだと、またひとつ教えていただきました。


ちなみRiiさん、2月16日から20日までの間は、名古屋市栄のギャラリーで個展を開かれるそうです。
今回ご紹介した壁画は市場関係者以外の方には見ていただけないので、是非こちらの機会にRiiさんの絵と花のエネルギーを感じてみてください!

■Riiさんについてはこちら
HP:https://riisflower.com/
Instagram:https://www.instagram.com/riisflower/



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