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万年筆から道具を愛する心を学ぶ ーー9月23日は「万年筆の日」

伝統は今を生きる vol.23

こんにちは。フォトグラファーのたかつです。
みなさんは最近、文字を書いていますか?

なんだか変な質問ですって?
いえいえ、よくよく自分の毎日を振り返ってみてください。

スマホやパソコンで文字をタイプすることはあっても「書くこと」はとても少なくなっているのではないでしょうか?小学校でも授業の教材として、当たり前のようにタブレットやパソコンが導入されているそうですね。
会社での立場上書面に文字を書く機会が多い僕でさえ、最近はめっきり字を書く機会が少なくなってきたと感じます。

今まで文字を書くということを特別意識したことはありませんでしたが、ある日メモを取りたいと思った時に、スマホのバッテリーが切れていて困ったことがありました。その時はちょうど筆記具も持参しておらず、デジタル機器のバッテリーが切れるとメモすら取れないことに気付きました。

しかたなくコンビニでボールペンとノートを購入してその場をしのいだのですが、事務所のデスクの引き出しを開けると、同じような筆記用具が何本も転がっていて自分の無精を痛感してしまいました。

このままではいけないな…

そこで思い出したのが、過去に父からもらった「万年筆」の存在でした。
万年筆を、もっと普段使いしていきたいと思いました。


万年筆の歴史


いまの万年筆の原型は200年以上前にあったそうですが、さらに起源を辿るとインクを使って書く道具は紀元前2400年頃の古代エジプトで誕生したようです。7世紀頃に欧州で鳥の羽を使った「羽ペン」が誕生し、18世紀まで1000年以上にわたって使われ続けました。しかし筆記するたびにペン先をインクにつけて書くのは、利便性や携帯性の面でいささか不便ではありました。そうした課題を解決しようと1781年、フランスの科学者ニコラス・バイオンが「永遠に尽きないペン」の開発を行います。残念ながらバイオンのペンは実用的ではなかったのですが、彼は軸の内部にインクを貯蔵する仕組みを生み出しました。そこから「万年筆」の歴史が始まったのです。
現在主流になっている万年筆の形が登場したのは、1929年に発売されたペリカン第1号モデル。先のバイオンが生み出した機構から、20世紀までに先人たちが日々試行錯誤を加えて生まれた形になります。


僕と想い出の万年筆


話しを戻して、僕と万年筆の出会いは今からおよそ15年前になります。
当時の僕は、前職の関係で東南アジアのマレーシアに駐在していました。
日本では書類にハンコを押印しますが、海外ではサインが主流となります。このため私も赴任当初はボールペンで毎日サインをしていました。
そんなある日、父からプレゼントされたのがこの万年筆でした。
「毎日仕事で使うのであればいいものを」とメッセージが添えられていたのを覚えています。その日から帰国するまで、この万年筆を毎日使い続けました。

マレーシアから帰国後、ハンコ文化の国で出番が無くなった万年筆。インクを抜き水に浸けて洗浄してから、約10年もの間引き出しの中で眠り続けていました。

しかし特にメンテナンスをしてこなかったので、本当に今でも使うことができるのか実は半信半疑でした。これは一度、専門家にアドバイスを求めようと思い、名古屋にある専門店に足を運びました。


万年筆専門店でアドバイスを聞く


今回お世話になったのが、名古屋の百貨店の中に入っていた万年筆専門店。
さっそく持参した自分の万年筆を確認してもらったところ「洗浄すれば問題なく使えます」とのことで、まずはほっと一安心です。
専門店の方の話だと、私がマレーシアから帰国後、万年筆のインクを抜き水に浸けて洗浄をしていたのが良かったとのことでした。あの時の自分を褒めてあげたいですね。
お店の超音波洗浄機で丁寧に万年筆を洗浄してもらい、メンテナンスや取扱などのアドバイスを受け、改めて万年筆の魅力などを伺うこともできました。

①万年筆の正しい書き方
強い筆圧で書いてもいけません。最悪ペン先が壊れてしまうんだとか。ですから万年筆を他人に貸し出すのはやめた方がいいようです。万年筆は毎日書くことで育てていくもの。他人に貸すことで育てたペン先がダメになってしまったというトラブルも少なくないようです。

②万年筆の蓋はすぐに閉じること
万年筆のインクは水溶性です。このため、書かないのに蓋を外していると蒸発してしまいすぐに書けなくなってしまうそうです。書いたらすぐに蓋を閉じてください。ボールペン等の慣れていると面倒臭いと感じるかもしれませんが、この「蓋をしめる所作」も万年筆の美しさだったりします。
また、新しいインクカートリッジをつけた場合、なかなかインクが出てこないことがあります。そんな時はインクを出しやすくするために、ティッシュなどでペン先を優しく包み、軽く振ってください。するとティッシュにインクが着き出します。これを何回か行う事で、インクが出やすくなります。


③初心者向けの万年筆は?
万年筆には7種の文字の太さがあります。
EF:極細、F:細字、MF:中細字、M:中字、B:太字、Z:ズーム、MS:ミュージック
右に行くほど文字が太くなり、書きやすくもなります。このため、初心者の方は「M:中字より太め」がおすすめとのことです。最近は数百円から購入できる万年筆もあるそうなので、こういう手軽なものから万年筆に触れてもらうのもいいかもしれません。

④万年筆の魅力とは
万年筆はその名の通り、大事にすれば永く使える道具になります。子どもや孫などに受け継いでいくことも全く不可能ではありません。書いた字にも「味」という魅力が生まれますし、書けば書くほど自分の字が好きになるような気もしてきます。自分が万年筆で書いた字を読み返すと、その当時の記憶が蘇ってくるような感覚もあります。


万年筆で、道具を愛する文化に触れよう

スタジオに戻り、専門店で教わったとおりの手順で万年筆をセットします。今回選んだインクのカラーはブルーブラック(メーカー名:ミステリアスブルー)という色。愛好家の中では「ブルーブラックで始まり、ブルーブラックで終わる」という格言があるぐらい人気のある色で、ビジネスユースでもよく使われるものだそうです。

とても綺麗な色なので一目で気に入りました。
僕は正直、字を書くことは得意ではありませんが、久しぶりに万年筆で字を書いてみると面白い!やはり他のペンとは違う独特な書き心地がクセになりますね。

そして専門店でおすすめいただいたお手頃価格の万年筆も購入しました。価格はなんと330円(税込)。こちらは「F:細字」のものを選びました。書き心地は少し固めという感じですが、この価格で万年筆体験ができるのなら、ぜんぜんアリでしょう。

そんな風に「万年筆」を再び使うようになってからは、デジタル機器を使用せず、メモを取る機会がとても増えました。当然、いたずらに不要不急の文房具を購入することがなくなったのは言うまでもありません。

万年筆は、確かにボールペンなどに比べると高価だったり、手間がかかることも多いです。ですが、書き心地、オシャレさ、育てていく楽しみなどを考えると、決して高いものではないと思います。

皆さんも万年筆を通じて、道具を永く愛する文化に触れてみませんか?人生を共にできる道具が見つかったら、きっといつもの暮らしが一段豊かなものになるはずです。



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