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保存期間は1000年以上!? カメラ好きに伝えたい、神の紙「伊勢和紙」

伝統は今を生きる vol.24

こんにちは。フォトグラファーのたかつです。
いま僕はとある仕事の打合せをしに三重県伊勢市に来ています。
いつもは車で行くのですが、今回は電車の旅。
名古屋から近鉄特急に揺られること約1時間30分で到着するので、程よい距離感です。

JR伊勢市駅

打合せの前に少しだけ伊勢の町を散策しました。
こちらに来る際は伊勢神宮やおかげ横丁に直行というルートが定番だったため気づかなかったのですが、伊勢市駅前には渋い建物や味わい深い商店街などがあり、とても懐かしい空気が流れる場所でした。今後またゆっくり訪れたいですね。



伊勢和紙メーカー「大豐和紙工業」へ


僕が伊勢市に来た目的は、以前みたすくらすの記事「伊勢和紙で写真印刷を楽しもう」でも取り上げた大豐和紙工業さんで打合せをするためです。

製造されている伊勢和紙の発注と写真のプリントについて細かな確認をするべく、現地へ赴くことになりました。今回発注する和紙は、サイズがなんと横1500mm x 縦860mmという大型の物。この巨大な和紙に撮影した写真をプリントし、お客様に納品するというフォトグラファーとしては非常に気合いが入るプロジェクトになります。使用する和紙をネットで選ぶのは難しいためここまで訪れたという訳です。
打合せの合間をぬって、大豐和紙工業株式会社 取締役の中北喜亮さんに改めて伊勢和紙についてお話しを伺いました。

大豐和紙工業株式会社 取締役 中北喜亮((なかぎたよしあき)さん


伊勢神宮のお神札にも用いられる、伊勢和紙


―――中北さんご無沙汰しております。SNSなどでは時々やりとりさせていただいていましたが、実際にお会いするのは4~5年ぶりですね。

中北:そうですね。初めてお会いしたのは2016年ですから6年前くらいでしょうか、私が伊勢に戻ってきて、家業だったここ(大豐和紙工業)に入社した年だったので覚えています。

―――中北さんが大豐和紙工業に入社した経緯についてお聞かせいただけますか?

中北:大豐和紙工業に入社する以前は、紙などを扱っている東京の商社に勤めていました。ただ、大豐和紙工業は120年以上の歴史がある会社ですので、物心つく頃には漠然とではありますが、いつかは7代目として会社を引き継ぐということを意識してはいましたね。戻ってくるきっかけになったのは年齢です。30歳という節目を迎えて入社することを決心しました。

―――改めてではありますが「伊勢和紙」の歴史と魅力について教えてください。

中北:伊勢和紙は伊勢神宮をはじめとする多くの寺社のお神札(おふだ)や暦、お守りなどに古くから使われている和紙です。全国の神社で頒布されている神宮大麻(伊勢神宮のお神札)にも伊勢和紙が用いられています。

伊勢和紙の原料となるのは、楮(こうぞ)や三椏(みつまた)などの木の皮
和紙づくりは水漬け、煮熟、水洗い、水撰りなど、ほぼ全ての工程で清浄な水を使用する
一枚一枚、均一の厚さに揃うまで漉きを繰り返して伊勢和紙は完成する

もちろんそれだけに、伊勢和紙を作るには多くの手間がかかります。原料を丹念に精選し、清浄な水で風合いゆたかに紙をすき、厳重な検査・仕上げを経てようやく完成します。ちなみに普段私たちが暮らしの中で使用しているほとんどの紙の原料は、木材をくだいて作ったパルプです。一方で和紙の原料は「植物の樹皮(正確には表皮の一枚内側にある靱皮と呼ばれる部分)」となります。ここから繊維を取り出して紙に加工するのですが、この靱皮繊維は木材繊維に比べて非常に丈夫であることが特長です。製造工程については、たかつさんに以前作っていただいた動画( https://www.youtube.com/watch?v=Uo04sjfqG9g )を見ていただくと分かりやすいと思います。


―――初めて制作工程を見せていただいた時は、その緻密で丁寧な仕事に驚かされました。

中北: そんな昔ながらの作り方をしている伊勢和紙ですが、現在製造を行なっているメーカーは当社のみとなっています。ただ、古くからの製法を受け継ぐと同時に新しい取り組みにもチャレンジしています。近年では伊勢和紙の新たな活用方法として、現代表(6代目)である私の父が写真印刷に使えるインクジェットプリンター対応の伊勢和紙を開発しました。墨文字と深くかかわりながら発達してきた和紙は、水性インクを使うインクジェットプリンタと相性が良かったんですね。

時代のニーズに合わせて、様々な種類の伊勢和紙が誕生している

―――以前も使わせていただきましたが伊勢和紙を使った写真印刷は本当に素晴らしいと思います。SNSの情報によると「リアルスタグラム」という新しい活動もされているということですが、これはどういうものでしょうか?

中北:リアルスタグラムはスマートフォンで撮影した写真を伊勢和紙に印刷して展示する企画です。インスタグラムの実写版みたいなイメージですね。伊勢和紙の魅力を少しでも多くの方に見ていただければと思い、同じ志を持つ仲間といっしょに始めました。そのメンバーが面白くて、全員職種がバラバラ!フォトグラファー、ミュージシャン、ソムリエ、市職員など多種多様な仲間でイベントを企画し、それぞれがスマートフォンで撮影した写真を持ち寄って伊勢和紙に印刷。地元の銀行のスペースの一角を借りて展示を行いました。この取り組みは想像以上に好評で、来年の夏頃にも開催予定です。ご興味のある方は観光のついでに来ていただきたいですね。

―――素敵な企画ですね!僕もその時はぜひ見に行きたいと思います。伊勢和紙は大豐和紙工業さんの努力もあって、伝統と近代文化がうまく融合しはじめていると感じました。中北さんにとってそもそも「伝統」とはどのようなものとお考えですか?

中北:伝統とは古いもの、寂れたものではなく、昔からニーズに応え続けてきた「その歴史」なのだと考えています。昨今ではDX化が盛んになっており、紙の需要は少なくなるのではないかと言われていますが、私はむしろ逆だと思っています。特に伊勢和紙のような特殊な商品は、さらに付加価値を生み出すチャンスだと感じています。

例えば和紙は、扱いようによっては1,000年以上保管できることが実績としてあります。正倉院には和紙に書かれた歴史的に価値のある書物などが保管されており、現代でも正倉院展などで観ることが可能です。こういう実績から見れば、大切な記録はデジタルデータで残すよりも和紙に残した方が安心度は高いのかもしれないですね。これからも伊勢和紙を用いた様々な活動を通じて、伝統的な和紙の可能性をアピールしていけたらと思います。

―――本日はお忙しい中ありがとうございました!


伝統を守るのではなく、ニーズを考え改革していく


「神の紙」とも呼ばれる伊勢和紙も、時代にあわせて多彩な顔を見せるようになっています。僕が今回求めていた写真用の伊勢和紙にも、本当に様々な種類がありました。素材ひとつとっても、定番の楮(こうぞ)、雁皮(がんぴ)、三椏(みつまた)以外にも、針葉樹やバショウといった植物の繊維から作る伊勢和紙もあるのだとか。商品にはなっていませんが「ユーカリ」を素材に伊勢和紙を作ったこともあるそうです。
素材が変われば、もちろん風合いも変わります。取材当日も色々な伊勢和紙を見せていただき、真っ白な紙や、赤味や黄色味のかかったもの等、どれも本当に素晴らしい風合いなので延々と迷ってしまいました。

そして打合せが終わって帰路の途中、中北さんの言葉が何度も頭をよぎりました。

「伝統は守るものではない。常に顧客のニーズを考え改革するものである」

僕が みたすくらすを通じて読者の皆さんに伝えたいと考えていたことと同じで、何だか嬉しくなってしまいました。伊勢和紙がずっと続いているのも、そういった想いを持つ中北さんのような人がいつの時代にも居続けていたからでしょう。その活動を応援するためにも、今後もプライベートやビジネスで積極的に伊勢和紙を取り入れていきたいと思いました。

■大豐和紙工業 株式会社
三重県 伊勢市 大世古一丁目10-30
TEL:0596-28-2359
敷地内に「伊勢和紙館」「伊勢和紙ギャラリー」を併設
現在、伊勢和紙ギャラリーでは大形直樹写真展「磯部の御神田」が
10月1日〜10月30日まで開催されています。
営業時間など詳しくはHPをご確認ください。
https://isewashi.co.jp/


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