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闇の中で、鵜と人と川の声を聴く「長良川鵜飼」

俳句と暮らす vol.14

5月5日に、立夏を迎えました


5月5日に、二十四節気の「立夏」を迎えました。
いよいよ、待ちに待った夏がやってきます。

生命感みなぎる夏。
青葉若葉がきらきらと輝いていて、とても大好きな季節です。

この時季、「新緑が気持ちいいなあ」と感じる人は多いと思いますが、私が俳句や季語を知ってから、さらに解像度高く“夏らしさ”を感じられるようになりました。

道端で見かける花や雑草、鳥の声や風の音、夏らしい空気、香り…。
季語がアンテナがわりになって、「夏が来たよ」と教えてくれます。


5月11日、「長良川鵜飼」が開幕します

いよいよ、岐阜市の長良川で「長良川鵜飼」がはじまります。
鵜飼とは、鵜匠が手綱で鵜をあやつることで、川魚を捕える伝統漁法。
夏の季語です。

1300年以上続く、伝統ある「長良川鵜飼」は、毎年5月11日から10月15日まで、中秋の名月を除いて毎夜行われています(川の増水時は中止)。

期間中、予定された休日はたった一日。
それが中秋の名月で、「鵜飼休み」と呼ばれています。

篝火で驚かせた鮎を捉える鵜飼は、「月明かりに鮎が惑わされ、篝火の効果が薄れるため」という理由で中秋の名月だけがお休みとされていますが、ほかの満月の日は休みではないので「中秋の名月=鵜飼休み」というのは、伝統的な公休といえます。
そんなところにも、とてもロマンを感じてしまいます。


長良川鵜飼、人の声と川の音

鵜匠さんが、いつも一緒に生活している、大切な鵜たち。
その中から、今日の漁に連れていく子を決めて、鵜舟に乗せます。

鮎が篝火の明るさに驚いて、川の中で光をはねかえしながら逃げるその一瞬を、鵜がくちばしで捕えます。
鵜の首に結ばれた紐によって、ある大きさ以上の魚は飲み込めないため、捕まえた鮎を吐き出します。それが鵜飼という伝統漁法の一部始終です。

この鵜飼の一連の光景ももちろん素晴らしいのですが、私は鵜飼の「音」が、とても好きです。

篝火の松明が、パチパチとはぜる音。
鵜匠が「ホウホウ」と、優しく鵜をはげます独特の掛け声。
船頭の櫂の音に、鮎を驚かすために船べりをたたく鋭い音。
鵜舟が、川面をゆっくりと滑っていく水の音。鵜が勢い良く揺らす川の音。

目を閉じて耳を澄ましているだけでもう、鵜飼の世界へいざなわれます。

長良川鵜飼の公式サイトには、杉山雅彦鵜匠代表が、鵜匠の衣装や鵜飼の手法などを実演付きで説明している動画があります。
飼い慣らしている鵜の話、鵜匠さんが鵜匠装束を着るところ、さらに水槽の鮎を見事に捉える鵜の様子も見ることができて、とても興味深い動画です。
(長良川鵜飼の観覧前に見ておくのがおすすめです!)
https://www.ukai-gifucity.jp/Ukai/onlineexplanation.html


松尾芭蕉が鵜飼を詠んだ名句

松尾芭蕉の有名な一句に、長良川鵜飼を詠んだ句があります。

おもしろうてやがて悲しき鵜舟かな 松尾芭蕉

季語は「鵜舟」。もちろん夏の季語です。
1686年、芭蕉が岐阜を訪れたときに、長良川鵜飼を観覧し、詠んだといわれている名句。
長良橋南詰のポケットパークに句碑があります。

はじめてこの句を知ったときも感動しましたが、それよりも、長良川鵜飼を観たあとにしみじみこの句を思い出したとき、なんとも言えない気持ちで心が満ちていくのがわかりました。
「おもしろうて」そして「やがて悲しき」。
鵜飼の本質とも言える、なんとも言えないこの言葉が、じんと胸に響きました。


今年、新しい観覧船がお目見え

長良川鵜飼は、期間中毎晩行われているので、長良川の川岸から自由に観ることができます。
川岸から観るのはもちろん無料。
川辺の気持ち良い風を感じながら、気軽に鵜飼を観ることができます。

ただ、鵜飼を観るためにわざわざ長良川を訪れるなら、やはり鵜飼観覧船に乗って観るのがおすすめ。
鵜匠が巧みに手綱を操る技はもちろん、魚を捕らえた鵜を間近で観ることができます。

今年の長良川鵜飼から、3隻の新しい観覧船が登場しました。
やわらかな間接照明が船内を優しく包み込む空間。
ソファに座って、食事やお酒を楽しみながら、ゆったりと鵜飼が楽しめます。

岐阜を代表する日本画家・加藤東一氏が、長良川鵜飼のクライマックスを描いた作品『総がらみ』の色彩から「月光」「金華山」「篝火」をイメージしたという、それぞれ趣の異なる3隻の観覧船が揃いました。

闇の中に光る青白い月をイメージした「白月(しらつき)」。
内側には桧や杉材を使い、柔らかく優しい月のような白の空間を演出しています。
美濃和紙の生成りの素材感に、伝統的な木組を採り入れたデザインです。

深い藍色の金華山をイメージした、ムーンルーフのある「藍山(あいやま)」。
夜の川面の深い青、藍色の金華山、鵜匠が身に着ける鵜匠装束の深みのある藍や黒のイメージを、落ち着いた藍色と素材感で演出しています。
ムーンルーフから月の光も注ぎ込む、幻想的な空間です。

篝火の情熱的な色を表現した「花篝(はなかがり)」。
篝火の炎の揺らぎや、緋色や橙色のイメージを手がかりに、ボールト屋根と明るい色彩で華やかに演出した船です。

それぞれ特徴ある屋形ながら、外観はシックな黒色。
船内は華やかで明るい空間ながら、外から見ると落ち着いた黒。荘厳な鵜飼の邪魔をしない、長良川の闇に溶け込むような船です。


今年の夏はぜひ、長良川鵜飼へ

鵜舟の舳先に焚かれる鵜篝が大きく揺れると、鵜舟に乗る人はもちろん、鵜の表情までもが浮かび上がっていきます。
水の音、炎の色、その躍動感あふれる伝統の漁の一部始終を、真っ黒な闇が包み込むその空気そのものが、こうして1300年も続いてきた伝統漁法の荘厳さ。

観覧船からはもちろん、川岸からも気軽に観ることができる鵜飼、ぜひこの夏は長良川に訪れて、その目で、その耳で、本物の鵜飼を捉えてみてほしいです。


暮らしの一句

鵜の機嫌取りつつ乗せる鵜舟かな 麻衣子

【季語解説】鵜舟・鵜飼(夏)
飼い慣らした鵜をつかって行う伝統的な漁法。
舟を操る「鵜飼」と、舟を用いない「徒歩(かち)鵜飼」があります。
鵜飼のほか、鵜篝、鵜縄、鵜籠、鵜匠など、鵜飼に関連するこれらの言葉も季語とされています。

ぎふ長良川鵜飼
期間:5月11日〜10月15日(今年の鵜飼休みは9/12)、その他、増水等により実施できない場合もあります
問い合わせ:岐阜市鵜飼観覧船事務所(岐阜市湊町1-2)058-262-0104
URL:https://www.ukai-gifucity.jp/ukai/



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