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早朝の花市場から学ぶ -花のある日常-

花、暮らし、私 vol.25

慌ただしい一日を終え、街が寝静まるころ。
人々の生活とはうらはらに、人知れずひっそりと動き出す場所があります。

名古屋の中心部からほんの少し離れただけのその場所は、まだ真っ暗な闇の中、どこよりも活気に溢れる空間となります。

——花市場。
街中の花屋さんが集まり賑わうその場所は、私たちの生活に欠かせない場所であるのに、私たちが知る機会があまりに少ない場所でもあります。

普段、手にしているお花がどこから来ているのか…?なんとなく知っているようで、知らない花の市場について、今日はお話をしていきます。

名古屋に数件ある花市場の中でも最も賑わうのが、中区松原にある花市場。
実はここ、全国でも特殊と言われているんです。その理由は、主要な流通を担う卸会社、相対取引(直接交渉で値段を決めていく取引方法)を行う仲卸会社に加え、愛知県内の生産者の卸販売がひと所に集まっていること。…と言っても、あまりイメージが湧きづらいかもしれませんね。

こちらの図のように、お花の流通は生産者から卸売市場を通って小売店に並び、私たち消費者の元に届いています。この、卸売市場(花市場)の中で、生産者さんが直接対面販売をするというのも珍しいようです。

そんな花業界の様々な立場の人がひと所に集まる花市場。今日はその中でも大きな流通の要でもある卸売会社「名古屋花き」の荒瀬さんに、市場の役割について教えてもらいました。

名古屋花き
https://www.flonet.co.jp/index.html

花市場の役割って?


——荒瀬さん、今日は宜しく願いします!早速ですが、名古屋花きさんでは普段、どんなお仕事をされているのでしょうか?

荒瀬:私たちは卸会社でありながら、仲卸の相対販売もしています。まずは生産者さんが出荷した荷物を仲卸さんやスーパーなどの量販店さん、冠婚葬祭業者さん・専門店さんへ大口ロット販売する卸市場としてのお仕事。それに加え、仲卸の相対販売も兼務することで小売店(花屋)さんにも小口ロットにて販売することができます。こうして、販売先のニーズに応えることで生産者さんの出荷されたお花を適所に送り出すことができ、ロスのない流通を実現しています。

卸市場の役割として分かりやすい部分で言うと、まずは流通の効率化としての役割があります。全国の生産者さんがもし100店舗の花屋さんにお花を送ろうとすると、100店舗分の流通コストや手間がかかります。反対に、花店のバイヤーさんが全国の生産者さんと繋がって品を揃えていくのには途方もない労力がかかりますよね。それがひと所に集まる市場があることで、双方の効率化を図る役割があります。

そして、すごく大切なのが花を「売る力」です。市場に集まった花を私たちは当日に全て売り切ります。

——えっ、今目に見えている、これ全部…??

荒瀬:はい、全部です!。
私たちは生産者の方からお花をお預かりし、委託販売をしている立場です。
僕は、“誰も欲しがらない花はない“と思っていて、様々な売り先を持ち、それぞれのニーズに合わせた花を提案し販売することで全て売り切ります。

私たちは花を集荷してそれを売る専門家であり、交渉人でもあります。生産者さんと、小売店や量販店などをつなぎ、安定した品揃えと量、価格をベストなバランスでコントロールするために、市場ニーズの動きを生産者に伝え、作付け(何を植えていくか)の相談をしっかりと重ねていくことも大事な役割です。

例えば、全国でみんなが作りすぎているものは作付けを減らさないと需要と供給のバランスが崩れて売れなくなってしまうよ、と言う場合や、あまりにも稀少性が高いもの、手間がかかるものなど、市場全体の動向と生産にかかる手間やコストの面も踏まえて、生産者さんがしっかりと安定して収入を得られように密にコミュニケーションを取ることも大切な役割です。

その日のコンディションを「今日の花よかったよ!」と生産者さんにフィードバックすることも、大事にしています。

——全体を見ている役割の市場があるからこそ、私たちがたくさんの種類のお花を手に取れるようになっていて、さらには生産者さんも持続的に生産を続けられるようになっているのですね!


市場といえば、のあの光景

さて、市場のことについて大枠イメージができてきたところで、私たちが“市場“と聞くとイメージする、あのセリの様子も見学させてもらいました!

7時のスタートと同時に、せり人の威勢のいい声が響き渡り、次々と花が流れていきます。
正面にはモニターが並ぶひな壇があり、ここに花屋さんが座って、せり人が手に持つ花と上のモニターに出る情報を見て競り落としていきます。

数年前に導入されたコンピューターシステム。それ以前は全て手と声だけで行われていたかと思うとすごいことですね。

ここに全ての花屋さんが参加するわけではなく、大型店や冠婚葬祭など、大口ロットでの購入を希望されるお客様が多いそうです。多くの花市場で一斉にこの時間帯にセリが始まるのだとか。
一般職の人たちがそろそろ出勤し始める頃、人知れず熱い時間が花業界では繰り広げられているのですね!


見えてくる市場の思い


——荒瀬さんは、お花が好きですか?

荒瀬:大好きですよ!(満面の笑み)

やはり、ここで仕事をしていると花を好きになりますね。毎日仕事で向き合っていて嫌になる、と言うことがないのは花特有かもしれません。普段の生活でも、花を買って生活に取り入れています。

今後は花をもっと、誰でも身近に、気軽に手に取ってもらえる日常を実現したいですね。今はまだ花は嗜好品としての需要が多いですが、心のゆとりが持てる身近なツールとして最高の物だと思うんです。ここに集まってくる花は皆、箱に入って届くのですが、それはただの箱ではありません。たくさんの人の思いが詰まったこの花たちを沢山の方に届けたいですね。きっとここで働くスタッフも皆思っていることだと思います。

花市場というと、なかなか仕事のイメージがつきづらいのか、人が集まりにくい業種だと思うのですが、生のものを扱う仕事には他の業種にはないやりがいがあります。一緒に業界を盛り上げてくれる人が増えてくれるとさらに嬉しいですね!

——荒瀬さん、素敵なお話をありがとうございました!

荒瀬さんのお話から、なんとなくでも市場の仕組みやお花の流通のこと、わかっていただけたのではないでしょうか。
せっかくなので、荒瀬さんへの取材のあと、市場で働く方々にもお話を聞いて回りました。


-名古屋花きの社員:古賀さん


——古賀さん、お仕事の大変なところと、やりがいを教えてください!

古賀:大変なところは、やっぱり時間帯が早いことですね。市場が空いている日は朝の2時から始業しますが、その分明るい時間帯に仕事が終わるので、少し得した気分になることもあります(笑)。逆に市場がしまっている日には就業時間も短く、自由な時間も多く取れるので、辛いばかりではありません。それから、生産者さんと花屋さん、双方のことや業界全体のバランスを見極めるのが難しい部分ですね。そのバランスをつかむのに時間はかかるかもしれませんが、日々、双方の声を聞きながら信頼関係を培っていくところはやりがいにもつながっています。


-仲卸会社:⽣花卸TANAKA の⽥中さん


——⽥中さん、普段のお仕事で⼤切にしていることはありますか?

⽥中:そうですね、僕の直接のお客様は花屋さんになるのですが、ただ⾃分だけが利益を出せばいいわけではありません。その花を仕⼊れてくれた花屋さんがしっかりといい商売を続けていけるには何が必要か?そしてその先の消費者さんにも喜んでもらえる花は何か?を常に考えています。
僕たちは花屋というプロフェッショナルを相⼿にしているので、花の品質ももちろん⼤事です。仕⼊れる花の産地や⽣産者、仕⼊れるタイミング・価格も全てその時その時のベストを⾒極めています。花屋さんが満⾜のいくもの作れるか、そしてそれを受け取った消費者さんが喜んでくれ、リピートしてくれるような花を届けられたらと思いながらやっています!


-仲卸会社:万常のRii さん

(Vol.8 「花市場に突如現れた壁画アーティスト」

——Rii さんにとって、花市場ってどんなところですか?

Rii:元気になるところです!
植物に囲まれているから。そして、植物を扱う⼈たちに囲まれているから。⽣き物をさわる、ということが元気になる秘訣だと思います。こんなに朝早くから忙しく働いて、花業界って⼤変な仕事だとは思うんです。でも、誇りを持ってお仕事をしている元気な⼈が本当に多いんです!


——花市場の皆さん、ありがとうございました!!


日常に、気軽に花を身近に取り入れよう!

さて、荒瀬さんのお話にもあったように、花業界では、より沢山の人にお花を身近に感じてもらう取り組みがいくつも立ち上がっています。私のお気に入りのアプローチをご紹介しますね!

まずは、もうそろそろ準備を始めている方も多いのでは?
海外ではバレンタインには男性から女性に花を贈るもの。日本でも、花を贈る若い男性が増えているそうですよ!今年のバレンタインは、ぜひ『フラワーバレンタイン』を。

花の国日本協議会「FLOWER VALENTINE」

そして、こちらはシーズン問わず、特に取り入れていただきたい内容です。
記念日に、誕生日に、あの人への感謝の気持ち・お祝いしなきゃ…のままのこと、心の中に眠っていませんか?サイト内の動画、温かい気持ちになります。

日本花き振興協議会 「Okulete Gommen」

日本ではまだ、“花屋に入る”ことに大きなハードルを感じる人の方が多いように思います。
とは言え、入ったら最後、取って食われるような花屋さんはきっと探しても見つかりません。
花束じゃなくても、一輪でも、まずは買ってみる。むしろ、花屋さんに行かなくても、道端に咲いている雑草を家に連れ帰って活けてみる。そんな小さなことから始めるだけで、いつかは海外のように“誰でも気軽に花を買って帰る“ 日常になっていくのではないかな。と思います。

また、市場のお仕事は未知な部分も多いからか、お話を伺った名古屋花きさんでも、今も求人をしているようです。少しでも気になった方はぜひトライして見てください。


花と関わる人たちの”届けたい“という想い

私は数年前まで、この松原の仲卸の会社で働いていたのですが、その頃から印象的だった光景があります。

素晴らしい花屋さんほど、生産者さんとよく会話をしているのです。これは花屋さんに限らず、市場の人たちにも同じことが言えます。

実際に生産している人とコミュニケーションをとりながら、花の鮮度や扱いなどをしっかり聞き取り花を見定めている。「美しい花をより美しい状態でお客様に届けたい」という気持ちが見えるようで、とても好きな光景でした!


「花が好き」から、
「花に携わる人が好き」へ。

これまで、フラワーデザインのお仕事だけでなく、花市場での経験から市場の人々や花屋さんとも関わり、invisible flowerの活動で生産者さんや消費者の皆さんとも関わり、わかったこと。それは、花の周りには、沢山の笑顔が連鎖していくということ。
わかったというよりも、実証した、という言葉の方が近いかも知れません。

これまで、色々な場所で、まっすぐな想いで花を届けている人たちをたくさん見てきました。その人たち皆、根底に同じ想いを持っていることに気がつきます。そして、とにかくみんな、花について語らせるとすごくいい笑顔になるんです。

1つの花束・1輪のお花を贈るとき。そこには少なくとも贈る人と贈られる人、二人の笑顔と二つの優しい気持ちが芽生える。でも実はその裏側に、花を束ねたりラッピングした花屋さん自身も、笑顔になっている。

さらにそのもっと裏側には、市場で働く人たちや、生産者さんたちの笑顔にもつながっていることも、是非心に留めておいていただけたら嬉しいです。

社会の大きな流れのうちの、ほんの一瞬かも知れないけれど、
一人一人のその優しい一瞬を、日常に増やしていくことが、これからの社会に必要なことなのかもしれないな、と本気で思っています。


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