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なぜ山梨出身の元銀行マンは、岡崎でたった6室のマイクロホテルを始めたのか。

働くって、いいかも。Vol.3

ここ数年でじぶんの働き方を見つめ直した、という方も多いのではないでしょうか。自分の努力ではどうしようもないところで、世界は一変する。だとすれば、せっかくなら自分のやりたいことで、好きな場所で、仕事をしたい。そう思われた方も少なくないはずです。

ただ、まだ行動に移せていない。どうしていいかわからない、という方へ。きっと、そのヒントになるようなおすすめの場所があります。それは、愛知県岡崎市にある、たった6室しかない「マイクロホテル アングル」

まだ世界がこうなる前から「暮らし観光」を掲げ、名所を巡る観光ではなく、地元の人に親しまれているお店や食べ物、文化などを楽しむ新しい観光を提案しているホテルです。

ユニークなのはホテルの在り方だけではなく、オーナーである飯田圭さんの生き方も。実は、飯田さんの出身は山梨県。ホテル経営もこの「アングル」が初めてで、もともとは山梨で銀行員をされていたそう。

何がどうなって、岡崎市で宿をやることになったのか。まちに開かれたホテルの1Fで飯田さんにお話を伺いました。


ぼくらの視点で岡崎をとらえなおす宿を。


───ウェブサイトやメルマガなど、目に触れるところにはいつも『ぼくらの「アングル」をきっかけに岡崎のまちを捉えるマイクロホテル』というコンセプトを掲げられています。まず、この「アングル」というホテル名について教えてください。

飯田:このコンセプトに決めた理由は2つあります。ひとつは、このビルがもともと、岡崎でいちばん古くからあったカメラ屋さんだったこと。その歴史をここで途切れさせるより、ほんの少しでも引き継いで事業をやるほうがまちの文脈を引き継げるかなと思ったんです。

そして、もうひとつは、ぼくらなりの視点(アングル)で岡崎を捉え、その良さを伝えていきたいと思ったこと。地元の人間ではないからこそ、岡崎の人にとってはあたりまえの光景も、旅人の視点で良さを伝えられる。『ぼくら』としたのは僕だけではなく、ここに集ってきた人たちみんなの視点で地域の人々に気づきを与えることができたら。そう思ったからです。

───僕はもう岡崎に住んで10年以上になりますが、たしかに「アングル」が発信しているものを見ると「あ、岡崎ってこんなにいいまちなんだ」といつも気付きがあります。でも、なぜホテルを開く場所が「岡崎」だったんですか。

飯田:直接のきっかけは、転職で初めて岡崎を訪れたことでした。岡崎市には市が運営する中小企業のための経営相談所があるのですが、山梨の銀行を辞めてそこに転職したんです。もともとは地域を元気にしたくて就職した銀行。でも、その相談所のほうが自分のやりたいことに近いと思ったんですよね。


二度の挫折が、ここへ連れて来てくれた。

───もともと「地域の活性化」に軸足があったんですね。そこへ至ったのは、なにかきっかけがあったんですか。

飯田:これまでの人生で二度挫折を経験しているのですが、それがターニングポイントになっています。

一度目は、大学時代。兄の影響で保育園の頃からサッカーをはじめ、高校で全国ベスト8になり、サッカー推薦で青山学院大学へ進学したのですが、そこで現実を目の当たりにします。プロへ進むような人たちとも試合をしたりするのですが、レベルが全然違ったんです。

ただ上手いだけではだめで、突出した何かがないとプロでは通用しない。同期のなかには海外へ行ってプロを目指したメンバーもいましたが、僕にはそこまでの熱量はないなと思い、サッカーを辞めることにしたんです。しばらくは虚無感でいっぱいでしたね…。でも幸い、所属していた学部で『地域の文化をどう遺していくか』という学問に興味を持ち、のめり込んでいきました。

───そこで「地域」との出逢いがあったんですね。銀行へ就職されたのも、その影響ですか。

飯田:そうです。地元に帰るたび思い出の店がなくなっていたり、駐車場になってしまっていたりといった経験も大きかったですね。そういった地域の大事なものを守る仕事ができたらいいなと思い、地元山梨の銀行に就職しました。

でも、もうひとつの挫折こそ、その銀行員時代。僕が思い描いていた“地域のお店や企業を応援する”という姿からは、大きくかけ離れていて、思い悩みました。

銀行員時代の飯田さん

そんなときにある本に載っていた『こうふのまちの芸術祭』に興味を持ち、スタッフ募集に応募。そこで、150年続く味噌屋の六代目や発酵デザイナーさん、山梨のワイナリーの方など、同じ熱量で地域のことを語れる人たちと出逢い、“生業”としての仕事に興味を持ちました。



───山梨から岡崎へ単身やってくることもそうですが、ピンと来たらすぐに動く。その行動力が現状を打開していっていますね。

飯田:たしかに、まずやってみることは大切にしています。サッカーでも、自分から積極的に動くことで局面が動く。中途半端ではいい結果につながりませんから。岡崎に来て経営相談所を辞めてからも、とにかく行動することで今につながっています。家庭を持ってからはもっとバランスを取らないと…と思っていますが(笑)


地域の入口としての宿、との出逢い。

───地域のためになること。そして、生業としての仕事。少しずつ現在地に近づいてきましたが「ホテル」に着目されたのは、どうしてなんでしょうか。

飯田:銀行員時代に、長野県・善光寺門前のゲストハウス『1166バックパッカーズ』というゲストハウスに泊まったことが原体験になっています。宿の人と地元の人しか行かないようなお店に行ったり、一緒にごはんを食べたりすることで、そのまちの見方が変わることやおもしろがり方を学びました。と同時に、宿はその地域の入口なんだと気づかせてもらいました。

───「地域の入口」という宿の定義、おもしろいですね。たしかに多くの場合、宿はただ休む場所で、旅の目的とは別の存在になっている気がします。

飯田:休む宿も大切だと思います。でも、宿を起点にその地域にしかないおいしいお店やおもしろい場所などを知って、『このまち、おもしろいよね』と思ってもらえる場所があってもいいなと思ったんです。まさか自分ではじめるとは思っていませんでしたが、いざ自分で何か事業を起こすと考えたときに、真っ先に浮かんだのが宿でした。タイミングやさまざまなご縁も後押ししてくれました。


岡崎をおもしろがる人を増やしたい。

───視点を変えると、まちの見え方が変わる。その体験を通して、どんなことを伝えたいですか。

飯田:モノの見方が変わることって、自分の選択肢を増やすことだと思うんです。僕は出逢ったいろいろな方がいろいろな価値観を見せてくれたおかげで、自分の好きなものがわかって、自分に軸ができた。

誰かの軸で生きるより、自分の軸で生きたほうが楽しく生きられますよね。『アングル』がそのきっかけになれたなら嬉しいです。それが、これまでお世話になった方々への恩返しにもなるかなと思っています。

共有スペースに置かれたノートには旅人たちの視点が綴られている


───「アングル」としてのこれからの目標を教えてください。

飯田:岡崎の入口のひとつになって、このまちをおもしろがる人を増やしたい。その先に、自分のものさしでまちを楽しんだり、暮らしたり人を増やすことが『アングル』としての大きな目標です。ただの日常を、見方を変えることで豊かな時間に変える『暮らし観光』という観光スタイルを、この岡崎の地でつくっていきたいです。

視点が変わることで、世界の見え方が変わる。それはきっと「まち」だけでなく、「働き方」もそう。自分自身の興味や違和感と真っ向から向き合い、行動しつづけている飯田さん。その視点は、あなたのこれからの働き方を変えるきっかけになってくれるかもしれません。


マイクロホテル アングル
Micro Hotel Angle

〒444-0041 愛知県岡崎市籠田町21 センガイドウビル
名鉄「東岡崎駅」北口より徒歩約15分
https://okazaki-angle.com/


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