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鰻屋さんに聞く「美味しい鰻のすゝめ」

伝統は今を生きる vol.19

記録的な早さで明けた今年の梅雨。そして猛暑。
節電で冷房の稼働を抑えなければならない社会状況もあり、ちょっとバテ気味なフォトグラファーのたかつです。

「なにかスタミナのつくものを食べて、何とか酷暑をのりきりたい…!」

遠くむかしのご先祖様も、そう思ったのかもしれません。
ということで、今回は日本の伝統的なスタミナ食「鰻」についての記事を書いてみたいと思います。


鰻の歴史


そもそも日本人が鰻を食べ始めたのは、紀元前5000年前の縄文時代からといわれています。想像していた以上にむかしです…!貝塚の中に鰻の骨があったことからそのように考えられているそうです。鰻食が本格的に定着したのは江戸時代に入ってから。徳川家康が江戸開発を進めていた際に湿地帯の排水のために造った干拓に住み着いた鰻が、労働者の間で食べられるようになったのだとか。なかでも「鰻の蒲焼」は大変人気でした。
ちなみに「蒲焼き」の語源ですが、見た目が「蒲(ガマ)の穂」に似た焼き方ということで、「蒲焼き」と呼ばれるようになったということです。
海外ではもっと古くから、紀元前431年から食べられていたという記録が残っています。古代ローマには、鰻を背開きにして魚醤と蜂蜜を混ぜたタレを塗りながら炭火で焼き、ごまをふりかけて食べる料理があったようです。日本の蒲焼きに非常に似ていて何だか不思議ですね。


巷でよく聞く「土用の丑の日」って?


鰻と言えば「土用の丑の日」。日本では古くから夏の風物詩となっていますが、そもそもなぜこのような言葉ができたかご存知でしょうか。
土用とは立春・立夏・立秋・立冬の前の18日間のことを指します。
そして丑の日とは、日にちを十二支に割り当てた丑の日のこと。
2022年は7月23日(土)と8月4日(木)が夏の土用の丑の日になります。ちなみに1度目の丑の日を「一の丑」、2度目を「二の丑」と呼ぶそうです。
では、なぜ土用の丑の日に鰻を食べるようになったのでしょうか?
さかのぼること江戸時代中期。冬場の鰻は脂がのっていて味も濃くて人気だったのに対して、夏場の鰻はあまり人気がありませんでした。このことをある鰻屋が発明家・平賀源内に相談したところ「土用の丑の日には“う”のつく食べ物を食べると縁起がよい」という語呂合わせがアイデアとして出てきました。鰻屋が「本日土用の丑の日」という張り紙を店先に出すと、夏の鰻は瞬く間に大人気に。この「土用の丑の日」というフレーズは、日本で最初に生まれたキャッチコピーとも言われています。


鰻を食べに岐阜県柳津町の名店へ


鰻のウンチクを調べていたらお腹がすいてきました。今回の記事を書くにあたっては、やはり専門の鰻屋さんにもお話を伺いたいと考え、しっかりと取材を行うことにしました。めざすは岐阜県の柳津町にある鰻の名店『㐂多川』(きたがわ)です。

㐂多川は、名鉄西笠松駅から徒歩十数分ほどのところにありました。名古屋市や岐阜市からもアクセスしやすい場所です。何十年と続く老舗と聞いていましたが、外観はモダンでとても綺麗な店構えです。店内も落ち着いた雰囲気で清潔感があります。


今回インタビューにご協力いただいたのは、店主の北川智也さん。先代から続く名店を引き継ぐ同店の2代目です。
ご挨拶もそこそこに、まずは「実食」と「撮影」のため、うなぎ丼(上)を注文させていただきました。


…鰻の焼ける香ばしい匂いが僕の胃袋をガンガン刺激します。
メニュー表を見ても驚きましたが、うなぎ丼(上)が何と2,200円(税込)!
懐に嬉しい料金設定です。箸袋や山椒のデザインにもこだわりを感じます。

鰻に欠かせない山椒も臼挽きした手作りのもの。

後から聞いた話ですが、2代目に代替わりしてからお店のロゴマークやWEBサイトをリブランディングしたそうです。伝統を守りながらも、時代に合わせて新しくするところは柔軟に変える。他の取材でも感じましたが、こういう姿勢が長く伝統的な商売を続ける秘訣なのかもしれません。

そうこうしているうちに、念願のうなぎ丼がやってきました。

うなぎ丼(上)

見てください、この色と艶。
写真からしてすでに旨いです。間違いなく「優勝」です。

それでは、いただきます。

うまっ!

本当にうまっ!

めっちゃくちゃうまっ!

鰻は最初の一口だけ美味しくて後は~などという人もいますが、これは何口食べても美味い!箸がまったく止まりません。あまりの美味しさに、あっという間に食べてしまいました。大満足です。


2代目店主 北川智也さんにインタビュー


うなぎ丼を夢中で食べ終えた後、店主 北川智也さんにお話しを伺いました。

―――うなぎ丼、とても美味しかったです!さっそく質問させていただきたいのですが、「鰻食」は日本の食文化の中でどのような役割を果たしてきたとお考えですか?

北川:「土用の丑」という言葉のお陰でもあるのですが、夏と言えば鰻というのは、日本人のDNAに埋め込まれているかのように「当たり前の食文化」になったのではないかと思います。そして鰻は栄養がある食べ物なので、スタミナをつけるにはとても適した食材です。健康に良いと言われる不飽和脂肪酸、DHAやEPAも豊富に含まれているので体に優しく胃もたれも起こしにくい。そういったところが長く日本人に愛されている理由なのではないでしょうか。
また、鰻は「日常の中のハレの日」に相応しい食べ物なのではないかとも感じています。「肩肘はらず、でもちょっとだけ贅沢して美味しいものを食べたい」そんな時に選んでいただけるのが「鰻」だと思います。

―――確かに、無性に鰻を食べたくなることってあるんですよね…。これからも「鰻」という食文化を守っていくために、北川さんがこだわっていることはありますか?

北川:当店は地元のお客様に支えられている店なので、地域の方が家族何代にも渡って通える「日常の中の鰻屋」を目指しています。どなたにとっても美味しい鰻であるよう素材の選定、調理方法、価格設定にこだわっていますが、特にお子さんに「美味しい」といっていただけると本当に嬉しいですね。
また、限りある天然資源を守りたいという思いから、当店で使用する鰻は全て養殖の鰻です。信頼のおける専門問屋を通じて様々な産地の鰻を試した結果、今は天然鰻に最も味わいが近い九州産の鰻を中心に厳選したものを使用させていただいています。脂がのっていてやわらかいだけでなく、素材本来の味わいを感じられる鰻を食べてもらいたいですね。

―――鰻をもっと楽しむコツがあれば教えてください。

北川:現代の養殖技術はとても向上しているので、昔と違って私たちは夏でも美味しい鰻を食べることができます。ですが個人的には、やはり冬から春にかけての鰻が一番美味しいと思います。その頃の鰻は脂もほどよく肉質も素晴らしいものが多いので、きちんとしたお店で食べれば間違いなく美味しい鰻をお楽しみいただけますよ。
あとご自宅で鰻を楽しむ場合ですが、オーブンなどで軽く焼き直していただくとお店の味に近い食感が蘇ります。よくお酒を振りかけてから温め直すのが良いという話を聞きますが、私はあまりおすすめしません。どうしてもタレの味と鰻の味のバランスが崩れてしまいますからね。お店のお客様にはそのまま焼き直したり温め直してくださいとお伝えしています。

―――貴重なお話をありがとうございました!


美味しい鰻をこれからも楽しむために

あまりにも美味しい鰻だったので、自宅用にテイクアウトの鰻も注文してしまいました。北川さんに教わった通り、余計なことはしないでただ温めて、家族と食べてみたらやっぱりとても美味しかったです。鰻は初めての子ども達も、美味しい美味しいと言ってパクパク食べていましたし、実は鰻の苦手な妻も「この鰻は美味しいから食べられる。不思議!」と喜んでいました。

実は鰻は、未だにその生態に謎の多い生き物であると言われています。その鰻の数は、年々減少傾向。最近のニュースでは、いつかは食べられなくなるとも危惧されています。しかし今回美味しい鰻を食べながら、僕たち消費者や生産者さん、鰻屋さんが、それぞれ考え行動することで守っていかなければならない食文化だと強く感じました。今が良ければそれでいいではなく、この先もずっと美味しい文化を残すために、皆さんできることをやっていきましょう。僕たちにすぐできることは、街の真面目な鰻屋さんで鰻を美味しく食べることです。

店主の趣味は「LEGO制作」なんだとか。店内に可愛いお店のLEGOが飾られていました。


■炭焼きうなぎ 㐂多川(きたがわ)
岐阜県岐阜市柳津町東塚3-25
定休日・営業時間はWEBサイトをご確認ください。
「土用の丑の日」や週末は混雑が予想されますのでご注意ください。
https://www.kitagawaunagi.jp/

※文中の価格は2022年7月現在のものです。




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