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古き良き「単館系ミニシアター」で映画を観よう

伝統は今を生きる vol.32

みなさんこんにちは。フォトグラファーのたかつです。
ジメジメと蒸し暑い日々が続いておりますが、いかがお過ごしでしょうか。
熱中症にもなりやすい季節なので、僕も特に日ざしの強い日は水分補給と涼しい場所で過ごすことを心がけています。

そんな季節におすすめの場所があります。
それは「映画館」です。
今回はその中でも、昔ながらの古き良き「ミニシアター」を訪れてみたいと思います。


映画館の思い出とミニシアター

日本の映画館は大きく分けて、ショッピングモールなどの施設内にあり多くのスクリーンで最新映画を流す「シネマコンプレックス(通称シネコン)」、そしてアート性やドキュメンタリー性の高い作品を少数のスクリーンで厳選上映する「ミニシアター」があります。(旧作を中心に上映する「名画座」と呼ばれる場所もあります)

近年、身近な映画館といえば圧倒的にシネコンが主流で、全国どこでも時期が一緒ならだいたい同じ映画が上映されているのですが、僕が幼いころは映画館によって上映作品が違ったため、「あの映画はこっちの映画館、この映画はこっちの映画館」といった具合に、見たい映画によって映画館を選んでいたような記憶があります。
夏にはアニメ映画が必ず上映されており、夏休みの季節は決まって家族や友人と地元の小さな映画館に行ったものです。「アニメ映画3本立て」がお決まりだったころが懐かしいです。

そんな小さな映画館、ミニシアターの数は少なくなってしまいましたが、今も素敵な映画を上映し続けているミニシアターは全国に点在しています。その中でも今回は、愛知県刈谷市にある「刈谷日劇」さんを訪れてみました。

今回取材した刈谷日劇は、名鉄「刈谷市駅」徒歩1分の場所にある


歴史ある単館系ミニシアター「刈谷日劇」へ

刈谷日劇は、愛知県刈谷市で1954年に洋画専門映画館として開業。1971年に現在の「名鉄刈谷駅前」に移転した歴史ある映画館です。2012年からは世界各国から厳選した映画を上映する「ミニシアター」として営業されています。

刈谷日劇が入っている「愛三ビル」は、古き良き昭和の香りがする建物。

刈谷日劇があるのは、駅から徒歩1分の場所にある雑居ビルの5階。ビルは運営会社が所有する昭和レトロな建物です。エレベータもあるのですが、壁面に様々な映画のポスターや告知が掲示されていると聞いていたので、階段で登ってみることにしました。

掲出されているのは現代映画のポスターなのに、どこか懐かしさを感じてしまうのは建物が醸し出すオーラからでしょうか。この雰囲気、堪りません。
階段を上っているうちに、これから観る映画への期待感も高まっていきます。

5階まで上り館内に入ると、すぐにチケット販売所がありました。チケットの自販機などは当然無く、何が観たいかと直接伝えるスタイルです。スタッフの方とお客さんの距離が近いのもミニシアターの大きな特徴かもしれませんね。

支配人から取材させていただく前に、せっかくなので映画鑑賞も。同時刻に流れていた2作品の中から、スクリーン1で上映される「マリッジカウンセラー」という結婚相談所を舞台にした映画を選んでチケットを購入しました。愛知県三河エリアがロケ地の映画ということで、知っている場所がたくさん出てきそうで楽しみです。


劇場内に足を踏み入れると、なんともノスタルジックな感覚に包まれました。

スクリーン1は76席の席数で、広さも僕好みの大きさです。シネコンなどの大きい映画館だと、僕はたまにスクリーンが大きすぎてどこを観ればいいのか分からなくなってしまいます。
平日の日中なのでもしかしたら自分以外にお客さんはいないかも?と想像していましたが、思いのほかお客さんが来ていました。若い方から年配の方まで幅広い年代層です。

そして、今の人には信じられないことかもしれませんが、ここ刈谷日劇は劇場内にトイレがあります。最近の映画館はほぼ全て劇場の外にトイレがあるのが一般的ですが、実は昔はこのスタイルが主流だったそうです。劇場内にトイレがあると、万が一のときも安心です。

約2時間映画を鑑賞し満足した後、支配人の堀部昭広さんにお話しを伺いました。


「刈谷日劇」支配人にお話を聞いてみた

祖父の代から引き継ぎ、3代目という刈谷日劇 支配人 堀部昭広さん


——本日はお忙しいところありがとうございます。映画もすごく良かったです!いま刈谷日劇で上映されている映画はすべて支配人が選ばれているのですか?

堀部:基本は2週間ごとに上映内容を入れ替えており、すべての上映作品を私と数名のスタッフで選んでいます。選ぶ際には必ず作品を観てから決めていますので、私も含めスタッフも年間200〜300本は観ていると思いますよ。せっかくお客さまの人生の貴重な2時間をいただくわけですから、観たあとに絶対後悔しないような作品を選ぶようにしています。

——年間300本!?それはすごい…。ラインナップを見ても、ドキュメンタリーを中心に世界各国から多彩なジャンルの個性豊かな作品が集まっていますよね。ちなみに刈谷日劇には、いまどのような世代の方が来館されているのでしょうか?

堀部:いまは有り難いことに、本当に幅広い世代の方にご来館いただいています。一定のファン層の方がいらっしゃいますので、ドキュメンタリー映画の上映は他より多目かもしれません。また、今日観ていただいた作品もそうですが、地域性の高い映画はなるべく流すようにしていますね。

あと最近はレトロブームもあって若いお客さまも非常に多くて、ミニシアターの雰囲気そのものを楽しみにして来られる方も増えています。古い建物や設備も、若い方にとっては「エモい」なんですね。実際は予算的なところですけど、残しておいて本当に良かったと思います(笑)

待合スペースには、利用者が映画の感想やリクエストを書き込めるコミュニティボードも


——刈谷日劇では監督や出演者による舞台挨拶やトークイベントも積極的に行われていると伺っています。

堀部:役者さんや監督さんもつくった作品に真剣で「自身の作品を観てもらいたい」「お客さまの声を直接聞きたい」という想いが強くあります。ですので積極的にお声かけをすれば、このような地方都市でも喜んで来ていただけるんですよ。もちろんお客さまにも大変喜ばれていますね。

——シネコンだと舞台挨拶のようなイベントは主要都市に限られてしますことが多いですから、創る側と観る側の距離が近いのもミニシアターの魅力のひとつなのかもしれませんね。ちなみに昨今ではネットで映画作品をいつでもどこでも視聴できますが、そういった時代の流れからくる影響はありますでしょうか?

堀部:若い世代の方はタイパ重視で、映画を含む動画や音楽などを早送りしながら視聴する方もいると聞きますが、映画館で映画を観るという行為はそれとはまったく違うものだと考えています。特に「映画館」という場所は、ただ作品を楽しむだけの場所ではなく、その場の雰囲気も味わえる場所なのではないでしょうか。まったく縁もゆかりもない人たちと、同じ映画を同じ空気を吸いながら、一緒の空間で鑑賞する。この体験はネットでは味わえないものだと思います。

——確かに。今日も映画を観た後に、同じ時間を共有した「一体感」をとても強く感じました。そういえばシネコンだと映画が始まる前「上映中の注意」がしつこいぐらいアナウンスされますが、こちらではほとんど流れていなかったような気がします。

堀部:ウチに来るお客さまは本当に映画が好きで、その作品を観たくて一人で観にこられる方も多いですから、おしゃべりしたりケータイを鳴らしてしまう人はほぼいません。そういった意味でも当館は「映画好きの方が安心して来られる場所」にできているかと思います。

——ありがとうございます。最後に、刈谷日劇さんの今後の展望などあればお聞かせください。

堀部:映画館はこの現代において、「スマホやケータイを見ない2時間をつくれる」貴重な場所です。これからも多くの方々にご来館いただけるよう素敵な作品を上映いたしますので、是非ともお越しいただけたら嬉しいです。SNSを通じた発信も頑張っていますので、若い方にももっともっと来てもらいたいです。また当館はデジタルだけでなく、昔ながらのフィルム映写機も残してあります。まだ構想中ですが、いつかはフィルム映画の上映イベントなども行ってみたいですね。

——素敵な企画ですね!その時は是非とも訪れたいです。本日はお時間いただきありがとうございました。



ミニシアターは、映画と「映画のような時間」を楽しめる場所かもしれない

インタビュー後、特別に普段なら入れない「映写室」を見学させていただきました。デジタル映写機の隣にはお話の最後にあった「フィルム映写機」が昔のままの姿で並んでいて、いつかこの映写機から流れる映画を観てみたい!と感じました。

また最後に、映画館から階段をあがった先にあるビルの屋上も案内していただきました。

気持ちのいい風が吹き、街を一望できるこの場所は、映画の中の世界と錯覚するほど素敵な場所でした。

「映画を見た後に気軽に来てもらって、余韻に浸ってもらっても別にいいですよ」と支配人はおっしゃっていましたが、一応普段は入れないスペースとなっていましたので、もし屋上に行きたいという方はスタッフの方にお声かけをしてからの方が良いと思います。

味のある空間で、支配人やスタッフの方が厳選した作品を観ることができるミニシアターの世界。刈谷日劇に限らず皆さんの身近にあるミニシアターも、是非とも訪れてみてください。

堀部支配人、お忙しいなかありがとうございました!

■刈谷日劇
愛知県刈谷市御幸町4丁目208 愛三ビル 5F
名鉄三河線 刈谷市駅から徒歩で約1分
「刈谷駅」ではなく、名鉄三河線「刈谷市駅」駅前なのでご注意を
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