「日本一美味しい納豆屋が岡崎にあった」 伝統は今を生きる vol.06
こんにちは。フォトグラファーの たかつです。
突然ですが、みなさんは納豆、食べていますか?
僕は子供の頃は苦手でしたが、大人になってから食べられるようになった一人です。今回は朝ごはんのお供としてもおなじみの「納豆」について取り上げていきたいと思います。
きっかけは、よく一緒に仕事をするコピーライターからの情報提供でした。
「岡崎市に“日本一美味しい”納豆屋さんがあるって知ってます?」
日本一の納豆が岡崎に??
聞くとどうやらそこの納豆は、味も香りも普通の納豆とは段違いの美味しさのようです。
考えてみれば納豆は、伝統的な日本食でもあります。
これは、みたすくらすの記事として調査する価値がありそうだ!
ということで、さっそく日本一美味しい納豆を作ると噂の『山下食品』さんにお話を伺ってきました。
納豆の歴史
とその前に、いつものように納豆の歴史をおさらいしてみましょう。
まずは納豆がいつから食べられる用になったか?ですが、実は正確には分かっていないようです。
縄文時代の終わり頃から食べられていたという説や、平安時代後期から食べられていたという説があり、日本の歴史の中でもずいぶん昔から食べられていたことが分かりました。そして一般庶民の間で食べられるようになったのは、江戸時代になってから。醤油が安価で手に入るようになった事が、納豆普及のきっかけになったと言われています。この頃に「納豆と蜆(しじみ)に朝寝おこされる」という言葉が記録に残っており、江戸時代には納豆、しじみの味噌汁、白米という現代とさほど変わりのない定番の朝ごはんが出来上がっていたようです。
納豆を調べていくうちに、なんだか同じ大豆加工食品である醤油や味噌にも興味が湧いてきました。
岡崎にある山下食品さんへ
僕のスタジオ(安城市)から車で15分。あっという間に岡崎市の西側にある山下食品さんに到着しました。
…えっと、ここかな?
日本一という噂を聞いて来ましたが、外観はいたって普通の街の納豆製造所に見えます。
後から聞いたところ、山下食品さんの社員は代表の1人だけで、後はパートさんが数名のみ。日本一美味しいと言われている納豆屋さんが、驚くほど小さな会社であったこと、そして意外にも近くにあったことに早くも期待感が高まります。
意を決しガララと引き戸を開けると、ほのかに豆のいい香りが鼻腔をくすぐりました。
ちょっと覚悟していた、納豆独特の匂い?はありません。
とても清潔な空気が漂っています。
昭和40年から続く山下食品さんは「納得のいく物しか販売しない」というこだわりで、地元の方々や納豆愛好家から長年愛される納豆製造会社。現在は2代目の山下将生さんが代表を務められており、平成28年には第21回全国納豆鑑評会で最優秀賞【農林水産大臣賞】を受賞されている、名実ともに日本一の納豆屋さんです。
当日は、お忙しいなか時間を作っていただき、山下代表にお話を伺う事ができました。
——本日はよろしくお願いいたします。山下さんは2代目ということですが、どのような経緯で家業を継がれたのでしょうか?
山下代表:前職は地元の大手自動車メーカーに勤めていました。そんな中、全国納豆鑑評会で東海地区初の受賞と小さな納豆屋から、全国的に注目を浴びるようになり、家業の手伝いをする時間も多くなりました。勤めていた時の上司から「なかなかあそこまで美味しい納豆食べたことない。せっかく両親が良いものを作っているので、無くしてはいけないと思う。家業を継ぐって言ったら両親も絶対喜ぶと思うよ!」と後押ししていただき…それで納豆作りへの道を踏み出すことになりました。
——自動車づくりから納豆づくりへ!転職にあたっての苦労はありませんでしたか?
山下代表:もちろん最初は、苦労しましたよ。といっても幼少期の時よりずっと見てきていたので流れは分かっていました。いろいろな失敗も見てますからね。 しかし、先代のやりかたを見て真似たり、同じやり方をしていても全く同じものができないのです。実践を繰り返し、ひとつひとつの工程がどのように作用するか?実際製造に関わるまでは何となくでしか分かっていませんでした。理論と現物が合わさるまでの大変さはありましたが、徐々に上手く作れるようになりました。自分が幼少期に食べた感動納豆を自分で体現できることが喜びでしたね。
自分はもともとこだわりが強く、細かいことが気になるタイプ。そして「なぜこうなるのか?」を突き詰めると納豆づくりはものすごく奥深いことが分かりました。今は先代のやり方をひとつひとつ検証してさらに改良を加えて、これまで以上に安定的に美味しい納豆づくりが出来るようになりましたが、日々試行錯誤を繰り返しています。
——理想の納豆を作るために、大切にしていることはありますか?
山下代表:創業以来、手造製法での納豆作りにこだわっていますが「本当に美味しい感動するほどの納豆をみなさんに食べていただきたい」という一心ですね。いい意味で期待を裏切らない。利益だけを追求した納豆は絶対に作らないということです。20年くらい前の鑑評会で初受賞を果たした時には常連さんから「やっぱりそうだよね!絶対ここの納豆が一番おいしい!ずいぶん前から日本一だと思っていたよ!何を今更・・・」と、逆に今まで受賞していなかったことを驚かれました。それだけ周りに当社の納豆の味を評価してくれる人が多かったことも、家業を継いだ理由のひとつかもしれませんね。
——納豆づくりの工程を簡単に教えてください。そして特にこだわっている工程はありますでしょうか?
山下代表:大豆の選定、大豆の選別(不純豆の除去)、大豆洗い、浸水、蒸しの工程を経たら、蒸し上がった大豆に納豆菌をかけてパック詰めをします。そして発酵を止めるためにゆっくり冷却させ、一日しっかりと熟成させた後でパッケージした納豆を送り出しています。こだわりというわけでなく、すべての工程が気の抜けない作業です。「大豆洗い」の些細な事から重要で、いわゆる仕込み段階までが特に気を遣う瞬間です。手作業でやさしく豆洗いを行います。素早く丁寧に、短い時間で丁寧に仕上げます。この豆洗いはとても地味な作業工程ですが、完成後の品質に大きく関係します。言葉にするのは簡単ですが、これを継続して丁寧に実践するのはやはり大変です。多分何も説明しないで見ているだけだと、ただ工程をこなしているようにしか見えないと思います。ひとつひとつが丁寧でこだわりの連続です。
——地味だけど丁寧な仕事を継続することが大事なんですね。ちなみに、代表がおすすめする納豆の食べ方はありますか?
山下代表:ウチの納豆は豆の味が濃いので、好きなように食べていただければいいのですが、個人的には塩分8%くらいの柔らかい梅肉と混ぜる食べ方がおすすめです。豆の味と香りが、梅肉の酸味や塩味ととてもマッチします。
——是非今度やってみたいと思います! 最後に山下代表が考える「納豆の魅力」は?
山下代表:納豆は伝統的な発酵食品で体にも良く、高タンパク低カロリーなので若い方にももっと食べてもらいたいですね。特に当社の納豆はこだわりの製法で作った納豆ですので、納豆が苦手な方でも美味しく食べていただけると思いますよ。
——ありがとうございました!
いざ実食! 異次元の納豆
山下代表から納豆に対する熱い想いを聞くうちに、「日本一の納豆」という煽り文句も大袈裟な話ではないなと感じてきました。
取材後に購入させていただいた納豆をスタジオに持ち帰って、いよいよ実食タイムです。
さっそくごはんにのせて食べたいところですが、せっかくのレポート。どれだけ味が違うのか試してみたいと考え、一般的な納豆を買ってきて食べ比べてみることにしました。
公平を記すために、納豆に付属しているタレとカラシは使用せず、卓上醤油のみで味付けを行います。
今回は小粒納豆で比較してみました。
山下食品さんの商品は北海道産小粒大豆を使用した『納豆旨造』です。
まずは見た目ですが、これにはあまり違いは感じられません。
納豆を少し持ち上げ香りを嗅いでみたら、面白い事に気がつきました。納豆と言えば普通あの独特な匂いを想像しますが、山下食品の納豆は「香ばしい豆の香り」を強く感じました。
さらに、混ぜてみるとまた違いがあらわれました。山下納豆はものすごく粘りが強く、きめ細い糸を引いていることが分かります。
まぜ
まぜ
まぜ…
ある程度よく混ぜたら、まずは醤油をつけず、ひとくち食べてみました。
もぐ
もぐ
もぐ…!
…うまい!!
さすが日本一の納豆屋さんが作る納豆です。
豆の味の濃さ、香ばしい香り、食感の良さ!
これまで自分が食べてきたものとは別次元の美味しさです。
続いて、醤油を入れて食べてみると、さらに美味しさが引き立ちました!!!考えてみれば、醤油も納豆も同じ大豆から出来る発酵食品。相性は抜群にいいのですが、醤油の塩味が足されることで、さらに美味しさが濃くなっているのかもしれません。
そして次にいただくのは、「心和(こころなごみ)」という大粒納豆です。
こちらは噂の日本一に輝いた納豆で、価格はなんと2パックで1,000円!
納豆に1個に500円⁉︎
思わず背筋を伸ばして混ぜてしまいましたが、
こちらは付属のタレとカラシを入れて食べてみます。
もぐ
もぐ
もぐ‼︎‼︎‼︎
うっ…うまい!!!!
まず、一粒一粒が大きい!
これは北海道のわずかな地域でしか収穫できない大豆を使っているそうです。
そして豆自体は柔らかいのですが、噛むと心地のよい反発が返ってきて非常に食べ応えがあります。咀嚼すると圧倒的に濃厚な豆のうまさがダイレクトに伝わってきて…なおかつ嫌味のない納豆の香りがさらに食欲を沸き立てます。
ハッキリ言って、これは納豆を超越しています。
別次元を超えた異次元の美味しさです。
もはや納豆ではなく「美味しい豆の一品料理」と言ったほうがしっくりくるかもしれません。
あまりの美味しさに、思わず2個目も食べてしまいました。
伝統は、人に感動を与えることができる。
今回「納豆」と向き合ってみて初めて分かったのは、昔から当たり前のように食べられていた納豆でも、素材や製法を追求し、洗練させることで、人に感動を与えることができるものになるということです。
日本一の納豆を作る山下食品さんは納豆作りにおいて、何も特別な素材や製法を取り入れている訳ではありません。ひとつひとつの製法を見直し、細かな改善を繰り返すことで最高の納豆を実直に作り続けていました。
「伝統」と呼ばれるだけ長く愛されるものは、昔ながらの技術をただ守るだけでなく、常により良いものを追求することを怠らないからこそ、感動できるし、受け継がれていくのだと感じました。僕もこの日本一の納豆のように、粘り強く最高の技術を追求して、人を感動させる写真を撮影していきたいと思いました。
山下食品さんの納豆は、下記ホームページや地元百貨店、スーパーなどでもご購入いただけます。また、山下食品さんを直接訪れて購入することもできるそうです。
異次元の美味しさの納豆、みなさんもぜひ一度ご賞味ください。